シリーズがん教育④-2
「がんの教育に関する検討委員会」報告書より

 文部科学省は2013年度に「がんの教育に関する検討委員会」(植田誠治委員長)を日本学校保健会に設置し、その報告書の内容を踏まえて、2014年度から「がんの教育総合支援事業」を開始。2018年度に予定される学習指導要領の改訂を視野に、「『がん教育』の在り方に関する検討会」でのさらなる検討と、モデル地域での実践を進めている。

「がん教育」の具体的な内容

「がん教育」の具体的な内容については、例えば、以下のような事項が考えられる。

ア がんとは(発生要因)
がんとは、体の中で、異常な細胞が際限なく増えてしまう病気である。がんには様々な種類があり、病気が進むと、元気な生活ができなくなったり、いのちを失ったりすることもある。また、がんにはたばこ、細菌・ウイルス、過量な飲酒、偏った食事、運動不足、持って生まれた素質など、多様な原因がある。

イ 疫学
がんは、日本人の死因の第1位で、現在では、年間約36万人以上の国民が、がんで亡くなっている。その主な要因は人口の高齢化である。また、生涯のうちにがんにかかる可能性は、男性の58%、女性の43%(2008年)とされているが、年々増え続けている。

ウ 予防
がんになるリスクを減らすための工夫。たばこを吸わない、規則正しい生活とバランスのとれた食事をする、適度な運動、ワクチンを受けるなどの方法がある。

エ 早期発見・検診
早期のがんの場合、治療をすれば治癒の可能性が高い。早期に発見するためには検診を受けることが不可欠である。日本では、肺がん、胃がん、乳がん、子宮頸がん、大腸がんなどの検診が行われている。

オ 治療(手術、放射線、抗がん剤)
がんになっても、全体で半分以上、多くの早期がんは9割近くが治る。がん治療の3つの柱は手術、放射線、抗がん剤(飲み薬や点滴)であり、それらを医師等と相談しながら主体的に選ぶ時代になっている。

カ 緩和ケア
がんになったことで起こる痛みや心のつらさなどの症状を和らげ、通常の生活ができるようにするための治療。治癒しない場合も心身の苦痛を取るための医療が行われる。

キ 生活の質
がんの治療後は、様々な不調を抱える人もいるが、今までどおりの生活ができるように”生活の質”を大切にすることが重要である。がんになっても充実した生き方ができる。

ク 共生
がんは誰もがかかる可能性のある病気であり、がん患者への偏見を無くし、共に生きることが大切である。

現時点の学習指導要領における「がん」に関する部分(中学校の場合)

【学習指導要領抜粋】 中学校【第3学年】 教科:保健体育(保健分野)
(4)健康な生活と疾病の予防について理解を深めることができるようにする。

イ 健康の保持増進には、年齢、生活環境等に応じた食事、運動、休養及び睡眠の調和のとれた生活を続ける必要があること。食事の量や質の偏り、運動不足、休養や睡眠の不足などの生活習慣の乱れは、生活習慣病などの要因となること。

ウ 喫煙、飲酒、薬物乱用などの行為は、心身に様々な影響を与え、健康を損なう原因となること。また、これらの行為には、個人の心理状態や人間関係、社会環境が影響することから、それぞれの要因に適切に対処する必要があること。

カ 個人の健康は、健康を保持増進するための社会の取組と密接なかかわりがあること。

【学習指導要領解説の抜粋】

イ 生活行動・生活習慣と健康
 (エ)調和のとれた生活と生活習慣病
 人間の健康は生活行動と深くかかわっており、健康を保持増進するためには、年齢、生活環境等に応じた食事、適切な運動、休養及び睡眠の調和のとれた生活を続けることが必要であることを理解できるようにする。また、食生活の乱れ、運動不足、睡眠時間の減少などの不適切な生活習慣は、やせや肥満などを引き起こしたり、また、生活習慣病を引き起こす要因となったりし、生涯にわたる心身の健康に様々な影響があることを理解できるようにする。

ウ 喫煙、飲酒、薬物乱用と健康
 (ア)喫煙と健康
 喫煙については、たばこの煙の中にはニコチン、タール及び一酸化炭素などの有害物質が含まれていること、それらの作用により、毛細血管の収縮、心臓への負担、運動能力の低下など様々な急性影響が現れること、また、常習的な喫煙により、肺がんや心臓病など様々な病気を起こしやすくなることを理解できるようにする。特に、未成年者の喫煙については、身体に大きな影響を及ぼし、ニコチンの作用などにより依存症になりやすいことを理解できるようにする。

カ 個人の健康を守る社会の取組
健康の保持増進や疾病の予防には、人々の健康を支える社会的な取組が有効であることを理解できるようにする。ここでは、住民の健康診断や心身の健康に関する相談などを取り上げ、地域における健康増進、生活習慣病及び感染症の予防のための地域の保健活動が行われていることを理解できるようにする。

対がん協会報2015年1月号より