シリーズがん教育⑤
欧米の取り組みから学ぶこと

 日本でもようやくその重要性についての認識が高まってきた「がん教育」。海外ではどのような取り組みがなされてきたのだろうか。国立がん研究センターで長年がんの最大の原因であるたばこ問題に取り組み、がん教育の実践も行ってきた望月友美子がん対策情報センターたばこ政策研究部部長にお話を伺った。



――海外ではどのようながん教育が行われているのでしょうか。

 私がお話しできるのは、アメリカ、カナダ、オーストラリアなどの英語圏についてですが、これらの国ではCancer Educationというと、まず第一にがん患者への教育を指すことが多く、次いで医療者への教育を意味するようです。それは患者自身が自分の病気を理解し、治療法についても自分が主体的に選ぶという、患者の自己決定権がとても尊重されているからだと思います。その考えが根底にあり、さらに、子どもたちや一般の人たちに対しては「自分でできること」として予防の観点からの教育が提供されています。

民間団体が活躍

――教育の場や担い手も学校とは限らないとのことですが

 学校でも健康教育の課題として子どもたちが自分の身体のことを学んでいますが、日本のような学習指導要領が無い国もありますし、地域やコミュニティごとにさまざまな取り組み方をしているようです。がんに関する基礎知識、予防、治療法などの情報をいかに得るかといった教育は、むしろキャンサー・カウンシルやキャンサー・ソサエティーのような民間のチャリティー団体に所属する健康教育者(HealthEducator)が担うことが多いです。



――健康教育者(Health Educator)についてもう少し教えて下さい。

 私が初めてこの肩書きを名乗る人に出会ったのは、カナダのバンクーバーで行われたWHOの会議で、日本の結核予防会にあたる肺協会というNGOの一員の方でした。彼女は元々看護師で、どうやって感染症から身を守るかといった啓発や教育のプロでした。そのNGOのマネジャーとして寄付集めなどの活動をしつつ、地域ではヘルス・エデュケーターとしても活動しているとのことでした。ある程度の質を保ったがん教育の担い手として、日本でも参考になると思います。

国は情報提供が中心

――国はどのような役割を果たしているのでしょうか。

 米国の場合、保健福祉省所管の疾病管理・予防センター(CDC)が、研究も行っていますが、州ごとに包括的ながん対策計画を作らせて、その内容や進捗状況をモニターしています。
 がん教育については、CDCは教材をつくるためのエビデンスのある基礎情報を提供し、それをわかりやすい教材の形にして普及させる役割はアメリカ対がん協会(ACS)などの民間団体が担っています。ACSは本当に沢山の教材を作っていますが、それは集めた寄付の社会還元の仕方の一つと位置付けているからです。
 アメリカ国立がん研究所(NCI)の方は、がん教育に関しても研究費助成により新しいアイデアやキャンペーン方法を開発し、成果の検証されたものを事業展開するエビデンスを作っています。

――成功したがん予防プログラムにはどんなものがありますか。

 オーストラリアがん協会による紫外線予防プログラム(サン・スマート)は、とても成功したキャンペーンです。学校でもポスターが沢山張られ、わかりやすい5つの標語が掲げられています。カモメのゆるキャラもいて、アニメのCMになったり、歌もあったりと子ども向けのパッケージ化されたキャンペーンになっています。先日久しぶりにUICC世界大会でメルボルンに行ったときには、日焼けが大好きだったオーストラリア人の色が白くなっているので驚きました。

子どもの力に驚き

――ご自身でもタバコフリー・キッズ・ジャパンというがん予防啓発プログラムを手掛けられています。

 これは3年がかりで開発したプログラムで、未来の主人公である子どもたちが主役になることが特徴です。今年度は函館の学童クラブの子どもたちが、iPadを手に町に飛び出し、たばこに関する情報を集めて発表しました。それこそモク拾いをしてポイ捨ての実態を調べたり、お店や事業所に取材したり、病院の先生に聞いたりと、子どもの持つ力に改めて驚かされました。今年は熊本、山形、浜松などでも広げていく予定です。

――最後に対がん協会に期待することを教えて下さい。

 対がん協会には支部もあり、地域に密着している強みを生かして、リレー・フォー・ライフを通じて子どもたちにがん教育を行えると良いと思います。例えば、子どもたちにミニ・グラント(研究助成金)を与えて自由研究を行い、リレーを発表の場にするなど色々なアイデアが実現できそうです。
 また、これまでの実績を生かして、ぜひ企業、学会、行政、地域、そして海外などとの連携役になっていただきたいと思います。

(聞き手 日本対がん協会 本橋美枝)

対がん協会報2015年3月号より