2024年11月26日

お知らせ

【第7回対がんセミナー】がん治療が直面する新たな学際的分野の課題とは

心臓や血管などの循環器や腎臓の病気とがんとの関係をテーマにした「第7回対がんセミナー」が10月9日にオンラインで開催されました。大阪がん循環器病予防センターの向井幹夫副所長と京都大学腎臓内科学の柳田素子教授が講演しました。がんをめぐる医療と循環器疾患や腎臓疾患がどんな関係にあるのか、二つの領域にまたがる学際的な問題は、がん患者の併存疾患をめぐる問題として近年関心を集めており、日本対がん協会の中期計画(2023~2028年度)でも重要なテーマとして取り上げています。


がん治療と循環器疾患との関係



向井氏は「高まる腫瘍循環器学の役割 高齢者や新薬登場でがんと心臓病との関係が重要に」と題して講演しました。講演では、がんの治療薬の進化に伴い、循環器疾患の合併症が多様化してきたことを指摘しました。がん細胞を攻撃する細胞障害性抗がん剤(アントラサイクリン系抗がん剤)が心筋症の合併症を起こすことは1970年代から知られていましたが、2000年代に入って、がん細胞の特定の因子をねらい撃ちする分子標的薬が登場すると、乳がんに対する分子標的薬(トラスツズマブ、ハーセプチン)によって引き起こされる心筋症が一気に問題になりました。さらに健康な血管の組織にも修復を阻害するような分子標的薬が登場し、肺高血圧症や血栓症など多様な合併症の対応に迫られることになりました。近年は本庶佑氏のノーベル賞受賞で関心を集めた免疫チェックポイント阻害薬(ICI)による劇症心筋症なども課題となっています。特に、ICIによる心筋症はまれですが、発症すると約半数が致命的な状況に陥ることも問題となっています。


こうした状況を背景に、国内外でガイドラインが整備されるなど、新たな学際的な問題への取り組みが進んでいます。日本では、2023年に日本臨床腫瘍学会と日本腫瘍循環器学会の編集により、ガイドラインが発刊されました。向井氏は「いまエビデンスが増えてきており、いろいろな研究も進んでいる。できればエビデンスがそろった部分からアップデートしていきたい」と話しました。


がん治療と腎臓疾患との関係


また、がんと腎臓疾患との関係については、体系的に評価し診療方針を示すものとして、2016年に「がん薬物療法時の腎障害診療ガイドライン」が日本腎臓学会や日本癌治療学会などと合同で作成されました。こちらも免疫チェックポイント阻害薬の登場など、治療環境の変化を受け、2022年に改訂されました。


こうしたガイドラインの内容などをもとに、柳田氏は「がん治療のカギ握るオンコネフロジー 腎機能を支え治療向上を目指す」と題して講演しました。オンコネフロジーはオンコロジーとネフロジー(腎臓学)の造語で、米国では専門領域として認知されているほか、がん患者の併存実感を語るうえでのキーワードになっています。


講演では、腎障害を起こす抗がん剤は多岐にわたることや、がん患者の急性腎障害(AKI)は予後を悪化させるため、腎臓内科医と腫瘍医とで治療を行うことが、がん患者の予後を改善すると指摘しました。AKIと腎障害(CKD)との関係や、AKIのバイオマーカー開発やがんサバイバーへの腎臓治療事情などについても紹介しました。


柳田氏は「CKD患者でがんの既往がある患者さんが本当に多くなってきている。通常のCKD患者さんと同じように診ていいのか、まだ研究は進んでいません。そういった状況を患者さんにお詫びしたい」としたうえで、主治医にがんの既往のことを伝え、一緒に考えていってほしいと呼びかけました。




併存疾患がある方や治療によって機能障害が生じた方から
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日本対がん協会は、がんに関する不安や心配がある方ならどなたでもご利用いただける無料の電話相談「がん相談ホットライン」を開設しています。


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AB共通のご相談


相談から見えてきた問題点




循環器の医師にとってはがんはあまり縁がない疾患だと考えられていた時代があったといいます。しかし、がんサバイバーが増え、循環器の病気になったり、逆に循環器疾患の患者でがんが見つかることも増えてきました。がんをめぐる併存疾患の問題は今後さらに広がっていく見通しです。各分野での連携を深めていかなければなりません。


(がん検診研究グループ 服部尚)