研究リーダー公募説明会
加藤雅志・厚生労働省がん対策推進室長補佐
【戦略研究の流れ】
これまでの戦略研究の組織
課題名 (交付額) |
実施団体 | |
平成 17年度 |
糖尿病予防のための戦略研究
(8億円)
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国際協力医学研究振興財団 |
自殺対策のための戦略研究
(2億円)
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精神・神経科学振興財団 | |
平成 18年度 |
がん対策のための戦略研究
(5億円)
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実施団体 がん対策推進室 実施支援団体 |
エイズ予防のための戦略研究
(3億円)
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エイズ予防財団 |
課題1
乳がん検診における超音波検査の有効性を検証するためのランダム化比較試験
背景
1)わが国では乳がんの死亡率が増加
2)日本人女性では、40歳代の乳がん罹患が多く、高濃度乳房が多いという特徴
3)現在普及しているマンモグラフィは高濃度乳房での発見精度が劣り、その死亡率減少効果は、50歳以上に比べて40歳代で低いとの指摘もある
4)高濃度乳房における腫瘤発見能が高いとされる超音波検査の有用性についてのエビデンスは無い
アウトカム
乳がん検診における超音波検査の有効性を検証するためのランダム化比較試験
↓ 乳がん死亡率の3割減少 |
研究方法
対象 40歳代の女性約6万人
割付 超音波検査+マンモグラフィ検診群
vs.マンモグラフィ検診受診群
主な評価項目
乳がん死亡率、検診の精度
課題2
緩和ケアプログラムによる地域介入研究
背景
1)日本国民の約6割が終末期には在宅での療養を希望
2)一方わが国では、緩和ケアサービスを受ける患者は少なく、がん患者の在宅死亡割合は約6%
3)がん医療の早期から患者の状態に応じた切れ目のない適切な緩和ケアの提供体制の整備が求められている。
アウトカム
緩和ケアプログラムの有効性を検証するための比較試験
↓ 1)がん医療の早期から始まる切れ目のない緩和ケア利用率の倍増 |
研究方法
対象 緩和ケアを必要とするがん患者
割付 緩和ケアプログラム群 vs.通常がん治療群
主な評価項目
1)がん患者における緩和ケア利用率
2)がん死亡者における在宅死亡割合
研究申請書の評価について
1)研究の厚生労働科学分野における重要性
2)アウトカム達成の実現性・効率性
3)研究の特色・独創性
4)研究者の資質、想定している研究グループ及び施設の能力(遂行可能性)
5)倫理面への配慮
上記のパワーポイントファイルは、/data/ppt/5katoh.ppt” class=”dotline”>こちら
以下に、説明会での土屋 了介・国立がんセンター中央病院院長の講演(要旨)から掲載。
「がん戦略研究について」講演(要旨)
「戦略的アウトカム研究策定に関する研究」班顧問
「戦略的アウトカム研究策定に関する研究」班の黒川班長より「戦略研究について、示されたような方針でやっていくとしたら、がんの場合、どういうことがいちばん問題となるのか」という質問があった。
がんの研究は予防・検診から始まり、診断・治療、そして緩和・終末医療に分かれると思う。対がん10カ年戦略、がん研究助成金、がん臨床によって、診断・治療に今までかなりの努力が向けられてきた。特に、根本的な治療がどうやったらできるのか、正統的な研究がなされてきた。しかし、国民の中には、がん研究そのもの、あるいはがん医療に対する不満があることが問題になっている。従来の医学をベースにした研究よりは、むしろ国民は医療がどう改善されていくか、自分たちの方へどういう還元があるのか、というところを期待している。それに対して研究者側の研究は、相変わらず医学そのものに向いている、というところが問題であろう、と指摘した。
したがって、予防・検診という点、がんにならないのに越したことはない、あるいはがんになってもできるだけ早く、助かるうちに治療するということになろう。さらに、大きな不満は、積極的な治療ができないか、あるいは積極的な治療をやるにしても、効果が少ない場合に、その生活の質をどう高めるか、というところに研究者の関心が向いていない——積極的な治療には、多くの臨床医は熱心だが、それを離れたときになかなか面倒を見てくれない、というところに国民の不満がある、ということを指摘した。
このたびの戦略研究では、ひとつは乳がんの検診、いまひとつは緩和を中心としてケアプログラムによる地域介入研究という形で研究が行われる。 今まで、多くのがん研究に携わってきた、あるいは臨床に専念されてきた方が、アウトカムがはっきりした研究をして、明日、役に立つということになれば、手伝いをしたかいがあり、喜ばしい。とくに、課題2の緩和プログラムによる地域介入では、従来の緩和ケアとは違い、医療だけではなく福祉、介護に対する理解もないとなかなか実りも出ないだろうと考える。成果が国民に還元されるよう願っている。
以下に、説明会での筑波大学大学院内分泌代謝・糖尿病内科 山田信博 教授の講演資料から掲載。
「戦略的アウトカム研究策定に関する研究」班 構成メンバー(平成17年度)
主任研究者: 黒川 清 東京大学
分担研究者: 山田 信博 筑波大学/辻 一郎 東北大学/福原 俊一 京都大学
顧問: 土屋了介 国立がんセンター (がん戦略研究担当)/吉田浩明/川上浩司
戦略研究とは?
・「戦略研究」は、行政のニーズにより計画され、その成果を「国民の健康に関する課題」や「国民生活の安心・安全に関する課題」を解決するために使用されることを前提として実施されるアウトカム研究である。
・その成果は、できるだけ速やかに診療ガイドラインなどに反映され、実際の診療などに広く生かされることが期待される。
背景:欧米の状況
■アウトカム研究
1980年中頃から、国にとって解決すべき優先順位の高い標的疾患を対象としたアウトカム研究に対して多額の公的研究資金が投入
■米国NIHコントラクト型研究:
研究の目的や計画の骨子をあらかじめ策定・提示した上公募する形式の競争的研究助成。その結果得られたエビデンスは、診療現場における医師の行動や意思決定にインパクトを与え、診療ガイドラインの作成と普及につながるなど、その研究成果は医療政策にも大きな影響を与えている。
これまでの経緯と研究テーマ
戦略研究の目的
わが国を支える国民の健康を維持・増進させるために優先順位の高い慢性疾患・健康障害を標的とし、その予防・治療介入および診療の質改善介入などの有効性に関する日本発のエビデンスを生み出すこと。
戦略研究の特徴
戦略研究 |
一般公募課題 |
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研究課題 成果指標と見込まれる改善度 研究計画の骨子 事前評価の視点 報告と評価 応募者 |
具体的に設定 事前に設定 事前に設定 実現可能性についての 「絶対評価」 年次報告・評価に加え モニタリング委員会設置 団体へ委託 5年 大型(数億円) 数課題 競争的研究資金 |
研究者に一任 研究者に一任 研究者に一任 申請課題の中での 「相対評価」 年次報告・評価 個人・団体 |
戦略研究のテーマ選択の基準
【1】頻度とトレンドの軸:frequency and trend
国家レベルのアウトカム研究では、国民の多くが悩み苦しんでいる問題を対象とした研究であること
【2】緊急性の軸: Urgency and unmet needs
診断・治療の均てん化や、医療の質の早急かつ大幅な改善が求められる問題を対象とした研究であること
【3】アウトカムの軸:impact and burden on population and society
患者や国民のアウトカムに大きなインパクト・影響を与える特定の疾患や健康問題を対象とした研究であること
【4】改善可能性の軸:modifiability
アウトカムや診療の質を「変えられる」「改善できる」疾患、健康問題なのか
改善できる余地が大きければ大きいほど優先順位は高い。
【5】実施可能性の軸:feasibility
現実的な診断方法や治療法が得られている、政策として普及することが可能、倫理的に許容される、など実施可能性の高い問題を対象とした研究であること
研究計画の骨子策定までの基本的な工程
「戦略研究」の基本的な組織
第23回(平成17年3月18日)厚生科学審議会科学技術部会資料を元に作成 |
求められる公的臨床研究
■国民の健康増進のための科学的根拠
■国民のニーズをより反映する研究:優先順位の高い研究
■透明性、公益性の確保:研究計画を提案して研究実施者を公募
■確実に将来の診療に反映するアウトカム
■長期、大型研究遂行のための研究費およびインフラ整備