2025年05月07日
お知らせ
【がん相談ホットライン 2023年度のまとめ】相談件数1万217件 前年度から1093件増加
がん患者や家族などから無料で相談を受ける「がん相談ホットライン」の2023年度の年報がまとまりました。相談件数は1万217件。前年度から1093件増え、コロナ禍前の件数には届きませんでしたが、4年ぶりに1万件を超えました。
2023年度のまとめ
ホットラインは予約不要で、相談者・相談員ともに匿名で実施し、看護師や社会福祉士が相談に応じます。2023年度の相談件数は月平均約850件で前年度比112%と増加。月別の相談件数では10月が939件で最も多くなりました。
■年度別相談件数
■月別相談件数
※23年度以前の月別相談件数は、「データで見る、がん相談ホットライン」よりご覧いただけます。
相談者の男女比率は女性が80.3%(8200件)、男性が19.7%(2014件)と例年と同じく女性が多くなりました。また、年代別では、50代が37.2%(3796件)と最も多く、次いで60代19.4%(1981件)、40代14.9%(1524件)、70代10.8%(1100件)などの順になっています。
相談者の続柄は、患者本人が68.9%(7044件)、次いで娘9.3%(952件)、妻6.2%(631件)となり、例年この傾向は変わりません。
相談を受けた疾患部位は、乳房28.3%(2893件)、腎・尿管・膀胱12.1%(1232件)、大腸9.3%(952件)、肺7.8%(792件)が上位を占めました。腎・尿管・膀胱が多いのは、頻繁にかけてこられた方がいたためです。
■相談の疾患部位
相談は全国、海外から寄せられています。相談者の承諾を得て居住地域(都道府県別)を聞いたところ、前年度同様、人口とがん診療連携拠点病院が多い地域が上位を占めています。特に、首都圏が多くなりました。海外の相談者は、主に海外在住の日本人でした。
相談内容は一度の相談に複数の問題が絡んでいる場合が多く、相談員は複数の項目を選択できるようにしています。その中で最も比重の高い項目を集計すると、「症状・副作用・後遺症」が26.0%(2652件)と最も多く、次いで「がんの治療」が20.5%(2091件)、「不安・精神的苦痛」に関する相談が15.7%(1601件)などとなりました。「グリーフケア」も1.6%(165件)ありました。また、相談内容の項目をすべて集計すると、「不安・精神的苦痛」が最も多く7069件、次いで「症状・副作用・後遺症」4567件、「がんの治療」3606件などの順になりました。
本人と家族(配偶者、親、子、兄弟姉妹)では相談内容に違いがありました。本人は「症状・副作用・後遺症」が最も多く、次に「がんの治療」など。家族は「がんの治療」が最も多く、次いで「不安・精神的苦痛」などの相談が多くなりました。
相談実績から見えてきたもの
主たる相談を集計した「相談の内容」は「症状・副作用・後遺症」が最多ですが、「相談内容総件数」は「不安・精神的苦痛」が最も多く、どの相談も根底に不安があるといえます。
患者と家族の相談内容の上位10位を比べると、患者は「症状・副作用・後遺症」、家族は「がんの治療」が最も多くなっています。患者は副作用やがんの進行に伴う不安のため、症状に関する相談が多いのに対し、家族はできるだけ長く生きてほしいと願って相談してくる傾向があるため治療に関する情報を求めた相談が多い。それぞれ順位に違いはありますが、6項目が共通しており、患者も家族も患者・家族間の関係や医療者との関係、コミュニケーションで悩んでいることが伺えます。
特筆すべきは残る4項目で、患者は生き方や就労、食事や外出などがんと共にどう生きていくかとの相談が多い。一方、家族は緩和ケアや在宅医療など療養や生活の場についての相談が多く、患者をどのような形でどの程度サポートしていく必要があるか、関わり方や少し先の備えとして相談にきます。
グリーフケアの相談も寄せられましたが、診断・治療中からの利用者が引き続き相談にくる場合と、相談できる場所を探してかけてくる人がいます。治療が終わると医療機関とのつながりがなくなることが多く、遺族への継続したサポート体制の必要性を痛感しています。
二度目以上の利用者が多かったのは、治療の選択時に毎日のように集中的にかけてくる人、長く治療や経過をみていく中で受診の前後や検査前に気持ちが落ち着かないとかけてこられる方が多い。また、不安が強く「一人になると怖い」と人とのつながりを求めてかけてこられる方や「話を聞いてほしい」とかけてこられる方も多くなっています。
気になる相談
■余命告知後の悩み
がん告知は原則患者本人に行われますが、余命告知は様々です。そもそも余命は医師も正確に予想できず、あくまでも中央値などを用いた予測で伝えられることが多く、その通りになりません。
相談からみると、余命告知のタイミングは治療選択の参考として治療したときとしないときの比較、本人や家族の希望、治療法がなく緩和ケアへ移行するときの三つがあります。
ホットラインの相談では「余命告知がなく、突然亡くなったように感じ、受け入れられない」という家族の一方、医師から丁寧な余命告知を受けて、やりたいことのリストアップや終活をして人生を有意義に生きようとする人もいました。
しかし、余命にとらわれて苦しんでいる人からの相談が多いのも事実です。「死ぬことが現実的になり、自分の気持ちを受け止めきれない」「余命のショックが大きく、冷静に治療と向き合えない」「治療を諦められない」と内容はさまざまあり、伝え方、周囲の言葉のかけ方で前向きになる人がいれば、苦しむ人もいます。余命告知は本人や家族の希望によるものが望ましく、生きる希望を失わせないよう丁寧で気持ちに寄り添った説明が必要です。ホットラインでは、苦しい胸の内を話してもらい、その苦しみを何とかしようともがく人に寄り添い、少しでも気持ちが安らかになれるよう心がけています。
※対がん協会報 第752号では、「気になる相談」として、「担当医とのコミュニケーション」、「療養場所で悩む終末期の高齢者」についても掲載しています。併せてご覧ください。
ホットラインでは、個々の悩みにともに向き合い、考え、問題解決の糸口を探しています。さらに、その人にとって必要で身近な支援先を見つけ、一緒に支えてくれる自分のチームを作ることでその重荷を少しでも軽くできればと考え、対応しています。
相談者からの感謝のことば
診断前 検査中の不安
「がんかもしれない」と思うと不安で落ち着かない。家族にも状況は話しているが、ゆっくり話を聞いてもらうことはできないため、こうして話を聞いてもらえるのはありがたいです。気持ちが落ち着きます。
治療後 家族との関係
配偶者との生活を見直したいと相談し、かかわり方のヒントを得られた。一人で考えてもこんなことは気づかないし、こんなおだやかな気持ちにはなれませんでした。
治療前 治療病院の選択
相談したことで自分の気持ちを整理できました。改めてしっかり考え、病院を決めたいと思います。
家族から 治療への考えの相違どう埋めるか
家族は治療がつらすぎてやめたくなっている。自分は治療を続けさせる対応しか思い浮かばなかったが、別の対応の仕方があることが分かり、安心して診察に行けます。
治療中 がんとの向き合い方
がん治療と家族の介護が重なり、ちゃんとがんに向き合わないまま、気持ちがモヤモヤしていた。話を聞いてもらい、励ましてもらって霧が晴れていくような感覚です。とても気持ちが落ち着きました。これからも頑張れそうです。
遺族から 遺族の気持ち
親戚の心ない言葉で傷ついて相談した。自分だけの考えでは後悔してしまいそうでした。話を聞いてもらって、これから自信を持って生きていけます。今は生き返ったような気持ちです。
ホットラインの受付時間は年末年始を除き、毎日午前10時~午後1時と午後3時~午後6時。相談時間は20分程度(目安)。予約不要で、相談者・相談員ともに匿名で実施し、看護師や社会福祉士が相談に応じています。