世界保健機関(WHO)は2018年7月から、健康的な職場の実現を目的に「禁煙革命(Revolution Smoke-Free)と題したキャンペーンを世界中で始めている。日本では、日本対がん協会がパートナーとなって始動した。
TID最終日、特別セッションとして発足式「禁煙革命 ~健康経営は禁煙から~」が開催された。
禁煙をつなぐボール
ホールの電気が消えると、舞台の2つの大画面に、青いボールを持った筆者(望月)が大写しになった。ボールには「Revolution Smoke-Free」という文字とロゴが書かれている。筆者がボールをポンと投げる。画面が切り替わり、後藤尚雄・日本対がん協会理事長が受け取る。後藤理事長がボールを投げる。大場康弘・SOMPOひまわり生命保険社長が受け取る。その後も、会社員、お年寄り、作業員、看護師、楽器店の店員、飲食店のスタッフ、カメラマン、宅配便の配達員……多くの人たちが、バトンをつなぐようにボールを渡す。そして、「働く場からタバコがなくなった時、みんなが健康に。」というメッセージが表示される。
WHO禁煙革命の発足式「禁煙革命 ~健康経営は禁煙から~」のオープニングムービーだ。
「あなたの宣言で会社が変わる。社会を変えられる」
WHOは、「民間の力こそが社会を変えていく、という理念でこのキャンペーンを組み立てた」と筆者は考えている。WHO本部のタバコ・フリー・イニシアチブのディレクターを務めた経験もある筆者が、開会の言葉を述べた。
「防げることが分かっていて放置するのは、不作為です。日本では、2千万人近くが喫煙者で、喫煙によって年間12万9千人が、さらに受動喫煙のみで年間1万5千人が亡くなっています。受動喫煙の被害者は、家庭と職場が半々です。職場を禁煙にすれば、受動喫煙の問題は起こらず、働く人たちの命をタバコから守れます。タバコ対策は感染症対策にも似ています。個人の力だけでは防げない。社会で防御していくことが必要だと思います」
日本からも、この発足式以前から11企業・団体が参画している。モンゴルでは259企業・団体に上る。筆者は「あなたの宣言で会社が変わる。社会を変えられる。是非このキャンペーンに参画して、一緒にタバコゼロ社会を実現していきたいと思います」とも話した。
続いて、WHO西太平洋地域事務局の柏原美那氏が登壇した。柏原氏は、西太平洋地域では年間310万人がタバコで命を落とし、タバコ関連の死者の15%が受動喫煙であることを明かした。そして、禁煙革命では、
①参加宣言、②禁煙の環境づくり、③その共有、が3つのステップだと語った。
社員の健康=会社の資産
ここからは第2部「禁煙革命の宣言と進捗」となった。
中国、フィリピンでの取り組みの報告に続き、SOMPOひまわり生命保険の大場康弘社長が講演した。「生命保険は、お客様の万が一のときに役立つもの。その万が一が、できるだけ遅く来るのをお手伝いしたい。そのためにも、自社の健康経営、禁煙への取り組みは、福利厚生ではなく、経営戦略と密接不可分です」
同社は、就業時間内を禁煙にし、新卒者は非喫煙者を採用することにした。2018年度18.3%の喫煙率を2020年度に12%に下げることを目標にし、喫煙者を禁煙への意欲別に分けて、それぞれに応じ、禁煙教室の開催や禁煙治療のサポートなどを行うという。
その後、第3部「禁煙革命ジャパンのこれから」に入った。
まずは、ロート製薬のジュネジャ・レカ・ラジュ社長が、日本語で講演した。ラジュ社長は「社員の健康=会社の資産」という認識を示したうえで、社員が健康状態をチェックするプログラム、毎朝の運動やヨガ、朝食の無料提供などを行っていると紹介した。
2020年4月に社内の喫煙率をゼロにするという同社会長の宣言を実現するべく、社内に健康通貨を作ったり、“卒煙”者を予想する「卒煙ダービー」で盛り上げたりしている。
「タバコが健康に悪いことはみんなわかっている。楽しく進めないとダメなんです」
他社の事例も参考に禁煙を進める
続いて、厚生労働省の神ノ田昌博・健康課長、東京都医師会の蓮沼剛理事のほか、禁煙革命に参加した企業の6人が、自社の取り組みなどを発表した。
オートバックスセブンの太田康弘氏は「当社の喫煙率は、全国平均より高い。禁煙に取り組む会社の本気度を社員にも意識付けするため、禁煙革命に参加しました」と語った。
ソフトバンクの石田恵一氏は、2019年4月から毎月1回の禁煙デーを設けており、2020年4月に就業時間中の全面禁煙を目指すと話した。社内の喫煙室廃止も調整している。
ヤフーは2013年から禁煙支援を行う。小野寺麻未氏は「禁煙革命に参加することで、他社の事例を参考・目標にしながら、よりよい健康経営を進めたい」と述べた。
ラーメンの一風堂で知られる力の源もとホールディングスの山口恵子氏は「国内外で273店舗展開しているが、海外のスタンダードに合わせて、またお客様や従業員を受動喫煙から守るために、灰皿はご用意していません。禁煙への取り組みが、あたりまえに広まっていけばいい」と思いを込めた。
最後に、葛西健・WHO西太平洋地域事務局長が、「社員の健康は、より高い生産性に、お客様の信頼獲得に重要です。みなさんのプレゼンの内容は、私のお伝えしたいメッセージと一致してます」などと述べて、会場全体で禁煙への決意を分かち合い、閉会した。
新型コロナウイルス対策では、全世界の人たちが、未来を脅かすパンデミックに対して問題意識を共有し、感染が広がらないように官民を挙げて工夫や努力、協力をしている。タバコ対策においても、同様の姿勢が大切なことを改めて強調しておきたい。